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岡山地方裁判所 昭和31年(ヨ)141号 決定

申請人 山本満治 外二八名

被申請人 木下唯一

主文

被申請人が、昭和三一年七月一〇日、申請人等に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。

申請費用は、被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

申請代理人は、「本案判決に至るまで、被申請人は、申請人等を、被申請人の従業員として取扱わなければならない。」との裁判を求め、

その理由の要旨は、

(一)  被申請人は、岡山市内において、木下興業部なる商号の下に、岡山劇場、金馬館、文化劇場、白鳥座、若玉館等の映画館その他浴場若玉温泉、OK劇場を経営する者であり、申請人等は、右映画館等の従業員であるところ、被申請人は、昭和三一年七月一〇日、申請人等を解雇する旨の意思表示をした。

(二)  しかしながら右解雇の意思表示は、申請人等が労働組合を結成し、正当なる組合活動をしたことの故をもつてなされた不当労働行為であつて、無効である。即ち

(イ)  被申請人経営の前記木下興業部の賃金ベースは、現在六、九五〇円という驚くべき低賃金ベースであり、且つ申請人等は健康保険に未加入であり、かねて、その加入を希望していたが、加入するためには、被申請人の事業体は、その賃金ベースが一〇、四六〇円と上昇されなければならないことが判明し、かかる事情が動機となり、昭和三一年三月一九日、文化劇場労働組合が結成され、次いで、これが母体となり、同年六月六日、申請人等全員で木下興行労働組合(以下組合という)を結成した。

(ロ)  かくて、組合は、同年六月三〇日、被申請人に対し、五七パーセントのベースアップ即ち前記一〇、四六〇円ベースの同年六月一日よりの実施を要求したところ、被申請人より「八月からいくらかベースアップする。賞与も七月二五日に支給する」旨の回答があつたので組合は、その額の明示と、文書による回答を要求したところ、被申請人は、これを拒否した。

(ハ)  そこで組合は、被申請人に誠意なしと認め、七月六日、岡山県地方労働委員会に斡旋申請をなし、右委員会は同月一〇日若玉旅館において、被申請人代理人川部静一、総支配人東志郎等出席の上、斡旋を試みたが、右川部静一は、同日、組合長山本満治に対し、突如、「全員やめて貰い度い」と言渡し翌一一日朝、組合員を若玉旅館に召集し、同所で右川部は、全組合員たる申請人等に対し、家風に合わぬことを理由として、解雇の意思表示をなし、その後、被申請人は、右解雇を理由に、申請人等が勤務していた映画館や浴場に入つて就労せんとするのを拒否し、臨時雇を以て、申請人等に代え、営業を継続している。

(ニ)  右の解雇は、申請人等従業員が、労働条件の改善のため組合を結成し、その後、賃上げの目的を以て、合法的要求をなし又地方労働委員会に斡旋を申請する等一連の極めて正当なる組合活動をしたことを怨みとし、その故になしたものであることは、明らかであり、このことは、右解雇の意思表示が、右地方労働委員会の斡旋進行中、何の前ぶれもなく、只一片の口頭を以つてなされたこと、又その理由とするところも、家風に合わぬからというが如き全く合理性を欠くものであることその他被申請人及びその経営する事業体の封建的性格等諸般の事情からいつて、まことに、明白であるといわなければならない。

(三)  以上の如くにして、被申請人のなした、解雇の意思表示は、不当労働行為として無効である。そこで申請人等は、被申請人に対し、右解雇の無効確認ないしは従業員たる地位確認の本訴を提起すべく準備中であるが、右本案判決の確定をまつに至つては、賃金労働者たる申請人等は生活に窮し、又現に、回復すべからざる損害を受けつつあるので、申請の趣旨記載の仮の地位を定める仮処分を求めるため、本申請に及んだ、

というにある。

よつて按ずるに各疎明資料を綜合すれば、申請人主張の事実は一応疎明せられており、該事実によれば、申請人等の申請は理由があると認められるが、その申請は、主文の如きもので、その目的に達するに充分であると認められるので、民事訴訟法第八九条第九五条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 和田邦康 熊佐義里 村上明雄)

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